大室佑介入門 私立大室美術館 2025・5・17 |
作成:佐藤敏宏 | ||
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荒川朋子さん2025年5月17日昼飯近。 | ||
絵画作家である荒川さんを聞き取ることができた。この場所そして大室美術館と、大室さんご夫妻との出会いから聞きはじめた。分かったことは大室美術館を愛し、中谷ミチコさんを敬愛していることだ。この10年間の交流によって自分の制作した絵画の肯定感が定まった、とも告白した。荒川さんは制作など模索しつづけている中、プレ・オープンした大室美術館にやってきた。荒川さんと大室美術館はご縁が生まれ交流がはじまる。荒川さんの作品は大室美術館のオープンを飾る、開館記念特別展を飾った作家であった。その時の展のタイトルは「日の長い一日」だ。荒川さんの作品を佐藤は実見していないのだが、想うに繊細な画質だろうからwebにある作品を探し出して、この記録には張り付けない。機会をみつけて荒川さんの絵画に触れていただきたい。 ■ プレオープニング展などから 荒川朋子さんに聞く 佐藤:第一回大室美術館で展示をされた荒川朋子さんです。ここで展覧会をする切っ掛けはなにがどうなって始り、荒川さんの作品を展示することになりましたか。 荒川:なんだったろう。私の前にプレ・オープンニング展で、イタリアとドイツのカップル、二人の作家が展覧会していました。ミチコさんの留学時代の知人がここに来て、作品を貼っていて、一般の方も観ていいよ、と。三重県立美術館のかたに、「今こういう展示やっているから観に行ってどう、」と言われました。三重県美術館から大室美術館おを紹介してもらいました。 佐藤:三重県美術館の学芸員のかたがここを知っていた!大室さんの活動は注目されていた、ということですか。 荒川:そうですね。ミチコさんも注目されてます。 佐藤:学芸員ですから両者を知ってますかね、荒川さんは紹介されてここに観にきてみたと。 荒川:初対面でした。 佐藤:(2015年7月)現在のように草が生えてましたか。 荒川:草生えてました。 (プレ・展とアーティスト・イン・レジデンス) 佐藤:その時やって来て、第一印象はどのようなものでした。プレ展の印象ですが。 荒川:パオラさんとエキさんていうかたです、二人がとってもフレンドリーでした。私は英語が話せないので、パオラさんがイタリアのかたで、エキさんという男性の方がドイツの方でした。ここに泊まって絵を描いてました。 佐藤:オープン前にアーテスト・イン・レジデンスが始まっていて、ドイツとイタリアのかたが滞在して制作していた、ということですね。 荒川:そうです。 佐藤:で、好印象を持ってしまいましたか。 荒川:凄い楽しかった! 佐藤:言葉が通じないのに絵画で通じ合えた、と。 荒川:言葉が通じてないのに、はははは。で、通訳もしてもらわず、絵を見せてもらったり、見せ合いっしたりして。 佐藤:その時に、自作の絵をもってきたんですか? 荒川:スマフォです。 佐藤:べんりですね! 荒川:ですね。 佐藤:荒川さんが大室美術館で第一回の作品展をする、なんケ月前の出来事でしたか。 荒川:どれぐらいだったんだろう。覚えてないです。私が展覧会をやったのは2016年5月14〜6月12日でした。 佐藤:「日のながい一日」と書いてあります。今までの作品でしたか、新しく描いた絵画を展示されたんですか。 荒川:一回目が今まで描いた作品を飾って、ちょっと期間をおかせてもらい、二回目に新しいのを飾った。 佐藤:2度展覧会されている!すごいですね。ここに来ると違うものを描いて展示したくなってしまいますか。 荒川:もともと私が風景らしい絵を描いているので、ここに日帰りできたり、泊まらせてもらったりして・・・その時は愛知県に住んでいたんです。三重県との境目辺りでした。車で1時間ちょっと、電車でくるのはつらい場所なんです。(笑) 佐藤:ここでいきなり外国人制作者と出会って交流!、大室、中谷夫妻とも知り合いになったと。、いいやつ来ちゃった〜、というか、楽しくなって。展覧会開くたびに毎回鑑賞しにも来館するようになったんですか。 荒川:はい、毎回来てます。 佐藤:刺激をうけますか、やはり。 荒川:受けますね。 佐藤:作家じゃないから分からないんですけど、自分の作品を展示する場所があるというだけで、嬉しくなって描いてしまったりするんでしょうか。 荒川:そうですね。 佐藤:近所や身近には友達作家さんなどとの交流はあるんですか。 荒川:私はあんまりないですね。 佐藤:大室さん中谷さんご夫妻を見ていて、どう思いますか。 荒川:どういうふうに? 佐藤:思いつくままでいいんです。感想です、褒めなくっていいんです。最初の展示から、その後の展まで含めての感想でもいいですが。 荒川:どんな立場になっても一貫してミチコさんは制作しているので、それは本当にすごいことだと思います。 佐藤:展覧会開いているど真ん中にでもアトリエへ行き来して制作している、それが今日も見えますね。 荒川:制作しているし、例えば今は学校で教えられています。そうでないときも、どんな状況の時もずっと作っているんです。 佐藤:中谷さんの制作状況もずっと見てこられたんですね。 荒川:凄いです。 佐藤:それは美術作家には参考になりますね。 荒川;参考というか、もう自分にはとてもたどり着けないので、尊敬しかないです。 佐藤:尊敬し、毎回展にやってきて付き合は続いているんですね。 荒川:大室さんはよく分からないです。 佐藤:(笑)大室さんは建築家ですから、分かりにくいですよね。 荒川:建築はまったく分からない。 佐藤:ここで、振舞いを見ていると、あいまいな感じがするのは建築家だからで、そこが建築家らしいと私は思います。 荒川:ミチコさんは作家だから、物を実際に作っている。出来上がったものの集積、数が増えていく。大室さんの建築を観にツアーで回ってないからかも知れません。まず、プランを、無いところから作っていくので。そこでゴーサインを出さなきゃいけない、という。建築家って凄い人たちなんだな、と思います。 佐藤:いかさま師です。 荒川:ははははは。 佐藤:構想時から、これが本当だと言い張り実現させる。ないものを言い張る人たちです。できていない現実を語りだして、造る。大室美術館のように既存で建っている建築の内容と性質を変容転換させていくのも、建築家の仕事の一つです。それからここにある自然との関係を把握して共振させて造ったり、変更と改修したりするのも仕事です。大室さんの暮らしのなかで個々に成っている全体が建築だと思います。日本では武士(権力者)たちが武士を殺しますけれど、庭園つくったり茶の湯や襖絵をつくらせたりする文化が続いていましたけれど、海外のアートもそうですけれど、何でもやる作事士です。大室さんは草刈りもして環境整備することは建築家らしいです。 公立美術館なら床に大理石を貼って、場に民家とは違うぞ!と威厳を与えるんですけど、ここは雑草の上に作品を並べています。屋内の展示館は工場の床をまま転用改修し、格子状の仕切りを3か所セットして、手数すくなく美術館としての意味と機能を与えて、そう言い張っているうちに美術館になっていく。観客ともども美術館として育てていくのが大室さんの建築家像だと感じます。彼は今世紀の新しい建築の在り方を示しています。今のところ日本で唯一の建築家かもしれません。大室さんはどこに手を加えたのか、分からないように操作するのでプロなんです。こういう私的な場所で、荒川さんが展示されたのは初めてだったんじゃないですか。 荒川:うん。 佐藤:ありふれた方法だったら喫茶店の壁に飾ったりして、装飾品として扱われてしまうのが大多数の町中展示だったりします。大室美術館は作家の展示する場として設定しているので、あとは作家の腕次第です。彼はきちんと作品として扱っています。 荒川:そうですね。だけど搬出の時に裏見ると蜘蛛の巣があるとか、(ほほえむ)それもまた面白い。 佐藤:県立美術館から戻てきた作品に蜘蛛の巣がついてることはない。天然の虫に食われたりする危険性がはらんでいる展示場、そこがまた魅力の一つになっている、と。 荒川:そうですね。雨や湿度と共にあるのもここらしい。 佐藤:県立美術館ではどんな暴風雨が襲来しても、雨音ひとつ聞こえないし、風も入り込まないですからね。今日は雨の強弱がBGMになっていて賑やかです。 荒川:分館もできました。 佐藤:第一回の展示の時は分館はなかったんですか。 荒川:なかったです。 佐藤:荒川さんにとって適した、いい友達できて泊めてもらって、刺激受け、ミチコさんの姿勢をみていると、わき目もふらず制作している。よくやるわと驚いたと。 荒川:本当に驚いた。 佐藤:だいたいこんな感じですかね。俺は荒川さんの作品は見てないので、なにも言えませんけれど、大室美術館で刺激を受けて、作品がかわったりしましたか。 荒川:作品の肯定感があがった、というか。 佐藤:自分の作品を肯定できる、強くなったと。それまでは否定的だったんですか。 荒川:そんなことは無いんですけど。自然と作品のつながり具合というのをミチコさんの作品を観てて学んだし、自分もここの環境に来て、たくさん考えて。以前は風景画と言われることの抵抗感はあったんです。 佐藤:ご自身は風景なんか描いてないぞ!と思っていた。極端に言えばね、風景に見えるのはあんたたちの目の怠慢だ!みたいな感じかな?そこまでは言わないか(笑 荒川:私の作品が(笑)風景に見えてもいいんですけど、見えてもいいんだ、でも絵画だ。 佐藤:その肯定感ですね。自分でも腹の底から絵画だと思える、受け止められるようになった。それは大室美術館の交流関係から生まれたと。大室美術館が開館して10年間の、長い付き合いしてきて、よかったですね。 荒川:そうですね。 佐藤:若い大室さんが仕掛けた罠にはまってしまって、深く肯定できるようになった。 大室:そうですか。 佐藤:わからないです。この場では共に育ち合うのも秘められているんなじゃないかなと・・・。展覧会が開催されていないときにも遊びに来ているんですか。 荒川:ミチコさんは制作しているので最近は来てないです、邪魔しないようにしてます。今日は来たけど・・ふふふふ。 佐藤:来たいけど邪魔しないようにしている、そうですね。俺なんかそんなこと考えもせず来て泊めてもらって、いろいろ聞きだしてしまいました。(笑) 荒川:展覧会だから、いいと思います 佐藤:それは、どうもありがとうございます。これからも交流しつづけて、制作も頑張って描いてください。 荒川:ありがとうございます。 |
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荒川:お母さんともだち、普段接してない人も来られるから、すごいいいな。 佐藤:ママ友が美術を観に? 荒川:ここを観にきます。 佐藤:少子化、全校生徒57人のママ友がきてる。一般の人だと、これもいいけどお金どうやって稼ぐのか?と。日本の人はそういう考え方に慣らされちゃっているから、ここは無かったことにしちゃうんじゃないかな。地域にひたりその点を子供を介して作家の生活や暮らしぶりをママ友にも理解してもらうのは、いいかも知れないですね。大室夫妻は、どう評されているんですかね、変わり者扱いされているんですか。 荒川:(笑)ここまで来たら、あれですけど・・・。 佐藤:絵なんか描いちゃって変な人がいるよ、といいう感じですか。 荒川:たぶん、そうですよね。親戚のなかではそうですから。 佐藤:あ、そうなの!親戚は絵、面白いね、って言わないんだ。日常の生活は朝起きてご飯食べて、作品を描き始めるんですか。 荒川:描き始めて、5時間ぐらい描きますね。ずっとではないですけど、だいたい5時間ぐらいです。他は学校の仕事に行ったりしてます。 佐藤:絵を教えてらっしゃるんですね。大学ですか。 荒川:非常勤です。 佐藤:いいですね、若い学生たちにずっと長く教えられているんですか。 荒川:教える仕事は、絵の予備校の講師をして、美術の大学に行くための予備校みたいな所で教えて、それから非常勤でも教えてます。 佐藤:最近の若者と予備校で教え始めた時の若者は変わりましたか。インスタグラムで見せあっているとか、昔、あの機器はないし。 荒川:ふふふふ。 佐藤:デジタル通信で見せ合う、世界の作家に直接つながる。IT機器の影響は大きいのではと思ったりしますが・・・。興味は、自分が絵の勉強して将来なになるのか、それは分からないけど、若者の前向きな姿勢は変わりませんか。 荒川:そうですね、淡泊でクールですけど。 佐藤:アートを教えるのは難しいですよね。 荒川:難しいです、何も教えてないです。 佐藤:それはいい!正解ですね。余計なことを教えると才能が閉じたりするし、ほめるのも変だし、かといって否定するのもおかしい。学生の内部にある才能を気づかせ芽吹かせる大切な時期に関わるわけですね。すごいな・・・・。週に何回とか決まっているんですか。 荒川:そうです。週に2〜3回です。ぎりぎり生きている。 佐藤:ギリギリ生きて、いい友達と交流していれば、それだけでいいんじゃないですか。家はあるでしょう。 荒川:家はあります。旦那の家があるんです。 佐藤:旦那さんも作家ですか、普通の男ですか。 荒川:普通の・・稼いでもいない。 佐藤:それもいいですね。二人でノンビリ生きていて、ナイスじゃないですか! 荒川:稼いでない普通の人です。 佐藤:家事はやってくれるパートナーですか。 荒川:家事、やってくれます。 佐藤:問題ないですね、いいね。大室さんは家事もたくさんやりますから、観てると俺が目が回りますよ。やること早いんですよ、しゃべりながらさっさかさっさか、夕飯作って、すぐできちゃう。 荒川:それは大室さんは頭がいいんです。 佐藤:こんなに身軽に家事もやる男だとは、ここに泊まるまで知りませんでした。我が家にも大室さんは泊まりにきたんです、福島には2度来ているんです。東日本大震災の直後と、2023年10月の2度です。そんなことで今年から「大室佑介入門」を始めたんです。オンラインで聞き取りしてるだけでは拙いな・・と思いまして。泊めてもらって生活を観ようと思ったら、今年から滋賀県大で講師に就任して、教え始めました。で、彦根、傍の駅で拾ってもらって、車で喋りながら大室さんの家までやってきました。 荒川:それも凄いですね。彦根で待ち合わせて車でここまで、来て泊めてもらって凄いですね。 佐藤:たぶん俺は他人の家・建築家の家に一番多く泊まっている爺さんだ、と思います。すぐ泊めてもらっちゃうんです。その家の経験ができるんです、自分の家が一軒しかないとしても他人の家なら数千万個はありますからね。たくさん泊まり歩いているから分かることも多いんですよ。プランは生活に、建築がどういう悪影響を与えるか、逆もあります。地方によって暮らし方考え方、招き方が違いますね。食べている物も違うし、奥さんが愛想悪いのもいますし、地方色豊かな家族間の会話もいろいろ体験できるんですよ。 大室、中谷さんたちは今、40代です。結婚されて10年まだ若いですし、子育て中だし、俺は爺さんになったから、同世代と交流しているのが嫌なんです。泊まりに来てみると若い家族の暮らしぶりが分かるような気がするんです。昔から遠慮しない無礼者ですから著名な建築家にも泊めてもらっちゃいます。遠慮していると他者から教わることを逃してしまうのはもったいないですからね。 荒川:いい考えです。 佐藤:IT、とテクノ封建主義と言われる世では、若い人に教わることのほうが多いですね。大室美術館と交流を重ね絵画制作もおこたりなく、お願いします。今日はいろいろお聞かせいただきありがとうございました。 |
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