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  2017年10月03日 
山川陸さんに聞く 新宿御苑にて
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佐藤:中学までは義務教育による出会いだったと。高校はどうされたんですか
山川:高校は都内の進学校に通い始めました。開成高校です。中学校は村だったので僕は村の中で勉強が出来たんですよ。本を読むのも好きだったんです。周りから頭がいいと褒められ、で、地元のお受験の塾に行って。そこではそんなに成績はよくなくって。開成高校は受からなそうだったんですけど。最後の一夜漬けみたいな事を沢山繰り返していたらまぐれで合格してしまったと。

佐藤:武蔵高校卒との出会いはあったけど、開成高校卒の人に出会うの初めてです。日暮里でしたっけ



山川西日暮里ですね。吉田五十八も開成高校なんです。開成高校も中高一貫なんですけど、高校からも行けるんですよ。で入ったんです。高校から通う人数は少ないですね。
まぐれの話で言うと、開成に入るまでは理系だと思っていたんですよ。数学とか物理が得意だと思っていたんです。実は国語が得意だと開成に入ってから気付くんです。というのは開成の試験も国語がすごい出来たんですね。二つぐらい物凄い長い自由記述をするだけの試験で。本読むのが好きだったからだと思いますけれど。読書感想文を書くのは好きでしたね。レビューみたいなのを書くのも好きでしたね。
高校に入って初めての数学の授業でまったく言っていることが分からなくって、そこから赤点をとり続けることになるんです。現代文の授業は変わっていて、色んな映画とかを観て映画のレトリックとかを考えたりとか、初めて裏読みをすることを知った。映っているものは映っているものだけじゃなくって、その後ろに何かしらの意図があって、それは何かを象徴していたりするっていう。後になって解ったのはその映画を見せたりして、読解の授業を教えてた先生が僕が受験した年の国語の問題を作った先生だった。すごい文学的な読解をする授業だったんで。
学年の多くの学生がチンプンカンプンで、みんな乗り気じゃないんだけど一部そういうのが好きな学生がいて、僕もその一人でした。それがあって、実は文学的なことの方が好きだったんじゃないかと思い始めて。
小学生の時とか僕はロボット工学とかやろうと思っていたぐらいで、完全に理系でやっていくと思っていた。高校に入って文系だったと気づいた。

佐藤:開成高校とはどういう高校でしたか紹介してください
山川開成もある意味で村なんですよね。独自の文化ができてしまった村なんです。男子高校で、基本的には学生の自治が強い高校なんです。
先生たちは授業を教えるだけですし、授業は大学の講義に近い。教科書が無くって研究者としてものを語っている先生が多い
その中で体育祭がいちおう開成高校のメイン、名物行事で。中学校1年生から高校2年生までを、ひと月、高校三年生が毎日棒倒しの練習をさせて特訓するという文化があって。しごきですね。棒倒しの練習の動画を毎回撮っていて、しかも10年分とかのデータストックがあって。カメラ4台で4方向から撮ってる動画とかを放課後に公民館とかを借りて、そこにみんなで行って。今日の練習とかを後輩の練習の動画を観ながら、ああだこうだ言いながら、対抗している他のクラスの動画も観ながら、このポジションのここが弱いから、ここを狙う戦略を立てようみたいなことを話し合って。

佐藤:見た目はプロ棒倒し戦士強化の特訓だね
山川:だんだん棒倒しでの戦略を立てられることが男としての評価とリンクして来てしまう。凄いインテリマッチョイムズというか。開成で認められていればそのまま世界でも受け入れられるんじゃないかという幻想をみんな抱いてしまう。大学に入ってそうじゃなかったと皆が気づくっていうのがお決まりなんです。
僕は高校から入ったんで、それだけではモテないって理解しているんですけど、中学から入っている人はそれで自分はモテるんだと思ってしまっている。ただ、なぜか文化祭とかはいい意味で従順なんですけど。

佐藤:受験内容ですが
山川:基本は選択肢を選択するタイプの問題はほぼ無い国語は自由記述だし、数学も三つ四つぐらいだけど、ほぼ白紙みたいなもの与えられて、ひたすら回答をしたプロセスを書く。学校内の模試とかは先生たちに言わせれば東大の試験より難しい問題だと言う自負はあるらしですね。
ところが困ったことに文学に弱い人が多いので。センター試験の国語で足切りを食らう学生が大勢いるんですね。それは不思議なところで。無駄な事とかが分からないんですよ。因果関係がはっきりしているものとか、理由がはっきりしているものは理解できるけど。
例えば、ある年にでたセンター試験の問題は、飼っていた犬が亡くなって、その犬が少年の姿をしていて、数日して帰って来る。一つの類型的な話ではあるんですけど。そういう話があったときに、死んだ犬が人になるとかあり得ないでしょうって言ってしまう人がかなりの割合いて。だから選択肢もみんな間違えるんですよ。それは不思議で、比喩とかそういうものは理解できない人も結構な数いるんです。理系というか、多様ではあるんですけど。
佐藤:比喩が理解できない男が社会に出るって怖いかもね。クラス編成は



山川50人8クラス。一学年で400人ですね。多いんですよ。試験に関してはそうなんですけど、人種がたくさんいるっていう意味ではフラットな学校ですね。
制服なんですけど、週末にみんなでカラオケに行こうと言って、駅前で待ち合わせると、とてもじゃないけど友達には見えない人が集まったりする。ヨーカ堂で買ったような、お母さんに買ってもらったような服を着ている人から、凄いお洒落な人もいれば、休日なのに学ランを着て来る人とか。一般的に見たら友達とはとても思えない。服装って所属している文化圏を示すじゃないですか。それがあまりに違う人が集まっている

佐藤:金持ちの子供しか通わなそうなんだけど、バラバラか
山川:一般的な私立に比べると学費は安いんですよ。元々ずーっと西日暮里に在る学校なので、昔は公立にかなり近い私立というか、下町の私塾みたいな感じだったらしいんです。今は割と所得の高い家庭に子供が多いみたいですけど。それでもどちらかというと庶民気質みたいなところがあって。

佐藤:山川さんは親に「開成に行け」っていわれたの
山川:本当は国立の高校に行きたかったんです。そこは落ちて開成が受かっていた。筑波大付属駒場高校を受けてたんですけど。開成は国立の練習というか同じぐらい難しさで、本命校の前の受験日程である学校というので塾の先生に薦められて受けたんです。
実は試験まで行ったことがなかった。まぐれで受かってしまって、その後受験勉強を頑張る意欲がなくなってしまって。それで国立も落ちたし、行ったことはないけど楽しいという噂を聞いたから開成に行こうと。都内に在るっていうも、山手線でも渋谷乗り換えで半周ぐらいして辿り着く学校なんで。未知の文化圏だったんです。それで行ってみようかなと。
佐藤:上野の周辺は独特の雰囲気あるからね
山川:そうですね。僕はそれまで東京に一人で行ったことは無かったで。ずっと一番線と二番線しか無い駅しか使ったことがなかったので、渋谷駅とかで乗り換えとか戸惑った。

佐藤:鉄男じゃなかったんだ
山川:お上りさんみたいな感じになって。
佐藤:my長男はうまれてすぐから鉄男してて、車両めちゃ詳しかったので小学2年生で福島駅から新幹線に乗って東京圏の各種電車を乗りまわしていたけど、山川さん高校生になって初山手線乗車!だったのね
山川高校生で初めて山手線乗車して、迷子になるみたいな感じで。僕は地理が弱いんですよ。家族旅行とか行くじゃないですか。行った先は覚えているんですけど。どういう道を通ったとか、何号線を走ったとか何も覚えてない。弟はそういうのをよく覚えているんですけど、僕はまったく覚えてない。

佐藤:西日暮里駅にある開成辺りは小高いじゃない足立区などを見下ろせる地形じゃない、背中は谷中などありそうだし、朝倉文雄の記念館もあるし、際に学校が在るので階層表現が出てるようで興味深いよね
山川:高校生の時は部活の朝練のランニングとかで芸大の方まで走って帰ってきたりとか。

佐藤:開成高校から東京芸大受験って聞かないんじゃない
山川少ないですね。古くは吉田五十八が開成から芸大に行っているんですけど
佐藤:開成は東大に入って役人さんになるための学校じゃないの
山川基本的には東大ですね。学年400人居て、200人以上が東大に行くっていう。僕の前に芸大に入った人が建築だと8歳ぐらい年上の人ですね。その間には一人もいなくって。

佐藤:まだスケッチ練習した話が出てないんですけど、3年間棒倒ししてるだけで受からないでしょう芸大、国語が出来ても受からないよね
山川:国語の授業は3年間好きだったんですけど。高校2年生の時に塾に通い始めて、その時は工学部を受験すると思って塾に行きはじめて、そしたら塾って大学院生とかが教えているんですよアルバイトで。その中にたまたま東大の建築科の大学院生が一人カリスマ講師の人がいて。その人の授業が面白くって。数学なんですけども、数学が図学とか美学とかにどういうふうに関係しているかと、授業から脱線しするかたちで毎回話してて、どうやらそういうデザインみたなものは面白そうだなーと思って。
その時はまだ、ぎりぎりとは言え数学もできるはずとまだ信じていたので。高2の終わりぐらいに建築にしようかなーと思っていたら・・高校三年生に上がって棒倒しの研究ばっかりしていたい時に山手線の色んな駅に芸大美術館でバウハウス展のポスターが凄い大きさで貼ってある時期、キャンペインしてて。そのポスターが格好よくって。

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