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  2017年10月04日 
山川陸さんに聞く 新宿御苑にて
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  新宿御苑そばの蕎麦屋に移動する

山川オブジェクトディスコはプロジェクトの名前です。正確には木内さんと砂山さんと。山田橋という中に山川添田さんと橋本さんの三人がいて。3チームの共同なんですけど。人数でいえば5人です
これは新築でマンションをつくった時に計画をどうするか決めていなかった角地の25uぐらいの公開空地みたいな設計のプロジェクトです
近くに養護施設とか幼稚園が在って、たくさん通る人がいるので、お施主さんがそういう人のために使ってもらえるようなスペースを作りたいと。私有地の一部を通行人に明け渡すような場です
通り抜けと、一時的に滞留してほしい。寝そべって何時間も寝てもらうのは困るけど、10分15分ぐらいだったら居てほしい。一番大きな要求としてあった。



それが起点にはあるんですけど、狭い道なんだけど、車の通りが多くって、角地だから、乗り上げられてしまうんだけれど、それを防ぐための車止めが欲しい。夜間はこの角だけ暗くなっちゃうから明るくする機能が欲しいとか。ここにはテナントが入る予定だからテナントの看板を置けるようにしたいとか。違法駐輪が多い場所だから自転車が止められないような仕組みが欲しいとか。五月雨にたくさん要求が出てきました。
全部お施主さんにとっては大事な問題だし、それ以上にここを誰か使ってもいい場所として設えるということが大事。で、僕らはそれを切実さの最大化というキーワードで考えて。その人にとっては切実なことだけどそれを最大限尊重してデザインとして応える
ただ様子のおかしい物がたくさん並んでいるわけなんです。それがどういうところから来ているかと言うと、ここにベンチがあります、低すぎるベンチと高すぎるベンチが在ります。高すぎるベンチはつるつるに磨き上げられてて、角もたっていて、若干座りにくい、低いベンチの方はぼこぼこしている。完璧に座っていい感じになりすぎると、長時間滞在されちゃうから、そこは少し外してたようなスケールのベンチやマテリアルにしようと
ベンチの上には球体が置いてあるんですけど、もともとは猫の彫刻が置いてあったんです。保育園の子供たちが通るから親しみのもてるマスコットみたいなものが欲しいとのことで設置し、でも野良猫が多い。猫が本当に来るとションベンとかかけられて臭くなるから本物の猫は困る。切実な悩みみたいな対応を考えていった結果、本当に猫の彫刻を置けばいいと。なんでここにあるかと言うと低すぎるベンチに置いたんだけど、なんとなく撫でられるように。座ることを促す要素として考えたんです
どうして移動設置したかと言うと作って数日で壊されちゃったんです。飲み屋街の近くなので酔っ払いが蹴飛ばしたのかは分からないんです。自分の私有地を明け渡してパブリックな事に提供するというお施主さんの理想とか、僕らの考えとかがいきなり現実に晒された出来事ではあった。だからといって禁止事項の張り紙だらけにするのは、この計画をスタートしたときの気持ちとは違うという話から、まだ座ることを促すような舞台を必要としてた。蹴っても壊れなさそうだし、頑丈な形態である球体に置き換えて。猫は庇の上に置いたんです
この後ろにも小さい張り紙があるです。猫が壊れた後に設置した植木鉢と案内板で、ラミネートしたA4の紙。

 店員 天ぷらそばとシイタケそばですどうぞ 

佐藤:食べながら続けましょう はいどうぞ



山川猫の彫刻についてはそういう話ですし、丁度ベンチの真向かいに生垣みたいな植え込みが作ってあって。お施主さんもアンビバレンツなので座ってほしいけど長時間は座って欲しくない。ぐるぐるしているんで。何となく外なんだけど部屋っぽくするために衝立みたいな要素が欲しいということでグリーンカーテンと呼んでいる生垣を置くことにして。
駐輪の話があるので完全に塞がった塀のように作るとぼこぼこ自転車を置かれちゃうので、電柱を支えている黄色いカバー材に平行に合わせたゲートを作って作ると、いつ人が出入りするか分からないけど、ゲートみたいな面構えをしてくる。人が出入りするかもしれないので抑止にはなる。その事を期待していたり。明かりをつけなきゃいけないから高い所に持ち上げてたりしているんです。
その一方で、周りの些末な要素をつぶさに観察をしていて、毎日同じ場所にぶら下がっている洗濯物のピンとか、マークとか煉瓦の壁紙とか。実際に街の体験はこういうものであるから、ショットパースで部分的に一瞬見えたものが瞬間的に関係づいて見えて来る
混然一体となっているですけど、要はそういう街歩きって楽しいし、こういう掛かっている洗濯物も手前にあるデザインされて置いてある看板とか植物もフラットに見れるような。それは普段過ごすうえでも気持ちが楽だし、そういう気分になれる場所が公共的な場所としてふさわしいのではないか。それで些末な物事も細かい部分で関係を持てるようにいろんな部分、詳細とか素材を決めて行った。この図面は一応それらをコンセプチャルに描いた竣工図であって、縮尺が滅茶苦茶に周りの物は描いてあって。
立っている物は車除けです。照明が足下にもあって。夜になると下から照らす。車除けってボラードっていう波止場にあるボラードです。これは言葉遊びですけれども。波止場にあるボラードがここにあっても意味としては正しいと。海の物が在ることから、石を分割するようなパターンをシジミの貝殻で作ったりとか。
だけど、それって、こういう海鮮居酒屋とかにあることと薄っすら関係しているような気がして。今色々説明しているんですけど、全部が伝わる必要はないと思っています。例えばこのGマークとかしてみれば黄色いっていうことでしか関係が無い。関係が無いようなものなんだけど、それに関係があると思うと物の見方とか・過ごし方面白くなるよねという気持ちがあって。
とにかくこのレベルまで、いろんな関係をこの中にある物事と周りの物事を結んであげて、それのどれか一つでも薄っすら気付けたらこの場所として成功
そういう関係性みたいなものをとにかく沢山落とし込む。ここを一瞬通り過ぎることが町の見方を変える装置になればいい。

佐藤:いま説明されたような物語をつくって、ひとつずつ結んではリアルな物に置き・仕立てたと
山川:持ち帰って読んでもらえればと思います。このチームをまとめていた木内さんが書いてくれた文章ですけど。この場所自体は小説というよりは辞書とかの方に近いと。アルファベット順というルールはあるんだけど、アルファベットさえ守られていればと。
例えば8と書いてある看板は美容室の看板なんです。これがあってもいいし、植わっている植栽とか、もはやお施主さんが勝手にどんどん植えていた。僕らが知らない植栽もたくさん植わっていた。その全部に毛筆で名札をつけ説明書きも添えられている。美容室のデザインと木がバツティングしているし。デザインとして破綻しているんだけど、それが全部同時に存在出来ている奇跡的な状況があって。
それは物がそう見られているっていうことは、人もそういうふうに参加できる可能性があるし、そういう場所を提供できるということは、このマンションとかお施主さんの価値じゃないかなーと。

佐藤:思いはよく分かったけど。境界についての考え方がロマンチックすぎると思います。境界は誰かや何かを排除するために作られた制度なので。逆にここでの行為は有効なのかってことを想ってみるんだけど。実験的であればいいけど、信じ込んでいると問題をまき散らしが続いてしまうと思います。実験デザイン作品よりは、どうして発注者が他者を私有地に招きいれたいと思うのか、その姿勢と動機の点に興味が向きます
山川:木内さんは40歳ぐらいで開成の先輩で、年は離れているんですけど仲良くって、最近いろいろ一緒にやっているんです。木内さんがレクチャーしたときに、質問しに来た女性がお施主さんです。
木内さんは東大卒なんですけど、石山さんに凄い影響を受けている人で、フランスとニューヨークの設計事務所を経由して日本に帰って。海外で働いていた事務所はコンピューターバリバリの事務所、3Dのモデリングとかプログラミングを駆使するような事務所で。王道をいく建築家とはだいぶ違う教育とか思想を持った人です。
その先輩になぜか、すごい面白かったですと来たらしくって。そのレクチャーから何年か経ったときにこういうのをやるからやってほしいと声が掛かった。チームでやったほうが面白いからということで呼んでくれて。一緒にやることになったんです


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