石川初さんに聞く 2021年5月8日午後15〜  作成:佐藤敏宏
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■ 春 設計  秋 作庭

石川
:当時、厚木の農場っていうのが在って。今はキャンパスになっちゃいましたけど。そこに10m角ぐらいの敷地が与えられて、そこに「モデル・ガーデンを造る」というプロジェクトなんですね。
佐藤:10m角じゃ狭いね、そうでもないかな。

石川:狭いです、そんなに広くない。庭ですよ。で、そこのデザインをまずやるんですよ。俺たちが図面引いたり、模型作ったり、コンセプトを考えたりして、春学期の終わりはそれのプレゼンテーションをやって講評会で終わるんですね。秋はそれを造るんですよ。春は設計、設計の講評会で終わり。設計の講評会で終わりじゃなくって、秋はそれの実態化のフェーズがあるんですよ。
佐藤:それはいいね。
石川:それは凄い面白かったです
佐藤:評価は次の春に芽吹いてから講評会ですか。
石川:いや、秋学期には出来ちゃうので、とりあえずそこで。
佐藤:木が枯れてしまってもいいの。
石川:木は移植するんです。春学期が終わってから、実際に次のフェーズに入るとまず現地に行って。石とか木とか、色んな材料が圃場に有るので、その中から材料検査をして、選んで、そこで設計に合う物を移植して。機械使ってやるとか、そういうの全部やるんですよ。 工事が始まると、俺なんかのやることが減っていって、「危ないからどいていろ!」と言われるんですよ。あれを経験したのはよかったですね。色んな人の手を経ていって庭が出来ていくということも実感できるし、想像していたものが実際に建設される現場を目の当たりにするというのが凄いよかったですね。

佐藤:そこでは設計通りにじゃない「お前の設計ここがおかしいぞ」ともめたりもするんですか。
石川:それはします。
佐藤:その時は設計屋が押すんですか。
石川:設計屋は喧嘩すると、だいたい負けますよね。
佐藤:ははは、現場に従うと。面白いことを大学でやっていたんだ、作庭実習ね。4年間ぞれを続けるんですか。

石川:作作庭実習は4年の最後の最後なんだけど、俺、研究室は風景研と言って、庭よりも広域の国立公園とか、地域景観とか、そういうのを研究する。空間のデザインじゃなくって、もっとデカイスケールの研究室に居たんですよ。何か空間のデザインだとライバルが多くって。「自分はそういう造形的なデザインはあんまり得意じゃなんじゃないかなー」と、気がしていて。3年ぐらいの時にそう思って。それで計画系の研究室に行ったんですね。










絵:造園実習 東京農大HPより

■ 対話力 体育会系

佐藤:コミュニケーション能力は大学の庭づくりの場で既に学んでしまったという感じしますよね。高校の時に小国の山に集まって来て、いきなり会話が成り立つんですか。
石川:寮生活がけっこう、寮って独特な社会になるので。
佐藤:飯も自分たちでつくるんでしょう。
石川:自分たちで作りますよ。
佐藤:生活の全てを自分で実行しなければ成り立たない、洗濯はもちろんするだろうけど、大人でも家事出来ない人多いじゃないですか。
石川:出来ない奴は鍛えられます、寮って、だいたい体育会系みたいに上下関係厳しくなるんですよ。

佐藤:造園作庭もそういう感じになりますよね、頭でっかちでは庭造れないし。
石川:造園もそういう感じですね。農大なんて、農大全体が体育会系みたいな感じだから。力関係の原理が簡単なので、むしろ楽ですよ。卒業生同士が会うと、名詞交換した後に何年卒業ですかって言って、それでもうほとんど決まっちゃうから。ふふふふ。余計な詮索をしなくっても済む。ふふふふ 。

■ 英語  国家一種  

佐藤:農大で作庭したあとは建築会社に行かれるわけですけども、英語はどこで勉強されたんですか、聖書を読んで覚えたですか。
石川:英語は会社に入ってからです。
佐藤:会社に入ってアメリカに派遣されたときですか。
石川:そうです。
佐藤:HOKプランニング・グループに入って、いきなり英語でしたか。

石川:そもそも俺ゼネコンに就職するというのは全く考えてなくって、「環境省に入って、アホウドリの数を離島で数えている人になろう」と思ってたんですよ。
佐藤:それはいいね。
石川:国家公務員の試験を受けたんですけど、ぜんぜん勉強していなくって、いきなり受けたから「これは受からないなー」と感触悪かったんですよね 。
佐藤:それは受かるの難しそうだ。
石川受かるわけないじゃないですか。今から思うと国家一種なんって。準備してないのに。だから「やべーなーどうしようかとなー」と思って。就活してなかったんですよね。そしたら、デザイン系の研究室に、その時まだバブルではなかったんですけど、景気が上向いている頃で、久々にゼネコンの設計部から求人が来たんですね。何人か。で、教授がなぜか俺に電話してくれたんです、寮に。寮で電話をとったら、自分の研究室じゃない先生でしかも、「石川、就活どうしてんだ」と言われて「国家一種受けたんですけど何かちょっと今一、多分、受からないと思うんで、どうしようかなーと思って、浪人して研究室に残ろうかなーとか色々考えてます」と言ったら「ゼネコンから話来ているけど受けてみるか」と言われて、「あー受けます、受けます」とか言って。















スーパーゼネコンへ

佐藤
:いいね。〜いい加減で。
石川:超いいかげん。「高層湿原の保全」とか言っていたくせに、ゴルフ場造っている山げずって谷を埋めている会社に。ふふふふ。それで図面とか、自分が描いて絵とかかき集めて、ポートフォリオ作ったんですね。でも、あとで知ったんですけどゼネコンの設計部の求人なので、東大とか東工大とか早稲田の建築の院生の連中と一緒に受けると、持って来る物とか全然レベルが違うんですよ。
佐藤:そうだろうね。
石川:そう、なんだけど、何か俺はたまたま教職をなぜかとってたんですよ。
佐藤:学校の先生になるつもりだったとか。
石川:いやどうして教職をとっていたいのか未だによく分らない。それで2週間教育実習が入っていたんですよ。向こうが指定して来た面接の日に「教育実習があるので行けません」と返事したんですよね。そしたら、他にもそういう奴が居て「じゃーずらしましょう」という話になって。それで、建築は建築で面接があって。ランドスケープの部門、採ろうと思っていた造園学科の学生だけで二人だけ、二週間ぐらいずらしていた面接だったんですよね。俺と違う大学の学生と二人で。どっちかが入るみたいな感じの面接で。5分と言われたんですけど20分喋りました
佐藤:それもいいね、お喋りでしたかね。
石川:いや、なんでかなー、なんかねー盛り上がつちゃつたんですよね。ふふふふふ。5分と言われて、まずポートフォリオ説明していて、絵が幾つか受けて「これいいねー」とかの話になって。したら誰か役員の一人が設計部長が「なんで高校だけ山形に行ったのかね」とか言って。
佐藤:未体験の領域だから聞きたいよね。
石川:それで、気が付いたら。
佐藤:よし、お前合格と。
石川:喋っていたら、超盛り上がってハッピーみたな面接になって。大学4年の5月。
佐藤:それって22,3才ですよね
石川:21ですね。
佐藤:日本がバブル経済が始まるぐらいのときですよね。
石川:そうですね、まさにこれからという感じのときでしたね。俺たちの次の世代が凄かったです、がばーっと採用されて。
佐藤プラザ合意が1985年だから、そうだよね。
石川:そう、俺たちの次の次の代とその次の代が凄かったです、でも変な奴一杯採って、その後で景気悪くなって「人材の不良債権」と言われてましたからねー。

共に笑う








絵:高層湿原WEBより










絵:WEBより

1年間 ジョブトレーニング

石川:俺たちそれで入って、最初の一年は配属じゃなくって、設計技術部っていう所に新人が全部詰め込まれて、研修の1年なんですよ。

佐藤
:ジョブ・トレーニングするんだ。
石川:色んなラインに派遣されるんですよね。

佐藤:社会を1年掛けて一巡りで体験させるんだ。
石川:「一巡り」と言っても現場は行かなかったんですけどね。設計の中でいろんな所を経験して一年経ってから医療系とか教育系とか住宅とか分かれていって。であとはインテリアと造園があって、俺は最初から造園の方だったので、造園の職場に行って。それで、新卒が同じ部屋に1年間居たので、部室みたいな感じでめちゃめちゃ仲良くなちゃって。毎月誕生会やっていたんですよ。凄い楽しかったです。ふふふふ 。
佐藤:誕生会もする変わった部活だね。

石川:新宿の三井ビルの26階。ふふふ
佐藤:中規模のゼネコンの設計部だったので何となくわかるんです。造園なんてやってたら、非現業とか言われれちゃうんじゃないですか、設計部はサービス的な位置づけだったので、金も稼がないかから非現況と言われて、現場から虐められてましたけど、そういう意味では離れているから気楽ですね、スーパーゼネコンはデカイので。

:何ていうか、最初ゼネコンの設計部から始めたから、建設部門をサポーとするという立場で設計するっていう習慣がついたので。あとで設計事務所で仕事するようになってからそれをアジャストするのが時間掛かりました。
佐藤:建物の周りに付随しているものだから強い指示を出す人が要るわけですね、ゼネコンでは強い指示を出す人が居るから。

石川:いやゼネコンで基本的に設計は、設計者が作りたいものを造るというようよりは、会社として望ましいプロジェクトが進んでいて、設計はその内の設計的なサポートするみたいな立場じゃないですか、ゼネコンだと。
佐藤:はい、よくわかります、そうですよね。
石川:あとはデザイナーや建築家の偉い先生の下で、実施設計をやるという仕事も凄い多いので。

佐藤:いわゆる有名事務所 建築家のお手伝いもですよね。
石川:お手伝い。そうですね、先生が左手でぐちゃーって描いたスケッチを、どう実際に建てられるものにするか、みたいな。ふふふふふ。
佐藤:そういう時は有名事務所に派遣されちゃうんでしょね。
石川:あ、そういう時もありますよ。えーとね、派遣されたこともありますね。
佐藤:そうすると自社じゃない違う世界が見えて、面白いですよね。
石川:そうですよね、でも俺けっこうそういうの好きだったんですよね。無茶なデザインをちゃんと出来るように実施にするっていう仕事は好きでしたよ。


 04へつづく

三井ビル WEBより