衆議院 原子力問題調査 特別委員会

原子力問題に関する件─原子力規制行政の在り方

第4号 令和3年4月27日(火曜日)
会議録本文へ 20211年令和3年4月27日(火曜日)
01)(政策研究大学院大学名誉教授)    黒川 清
02)(東京理科大学経営学研究科教授)   石橋 哲
03)(国際大学副学長・国際大学大学院国際経営学研究科教授橘川 武郎
04)(長崎大学核兵器廃絶研究センター副センター長・教授鈴木達治郎

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 次に、橘川参考人にお願いいたします


橘川参考人 皆さん、おはようございます。国際大学の橘川と申します。

 このような場を与えてくださり、心から感謝いたします。

 私は、三・一一から十年以上たちましたけれども、その後の日本の原子力政策についてお話をさせていただきたいと思っております。

 福島の事故があって、原子力政策はゼロベースで出直さなければいけないということが言われました。その際、大原則がありまして、原子力政策と原子力規制政策は切り分けるということで、規制政策の方は、一応規制委員会ができましたし、新しい規制基準もできました。ところが、残念ながら、原子力政策の方は、重要な問題が次々先延ばしされているというのが現実なんじゃないかと思います。よって、非常に国民に分かりにくくなっているんじゃないか。その点で、今日は三つの問題を取り上げたいと思っています。

 次のページをお願いします。

 私は、三・一一からずっと、今もそうなんですが、エネルギー基本計画を作る基本政策分科会の委員もさせていただいておりますが、そこでもやはり議論がちょっと分かりにくいところがある。いろいろあるんですけれども、今日、大きな問題として、三つ、リプレースをしない、回避するということがもたらしている問題と、核燃料サイクル一本やりということがもたらしている問題、それから三つ目に、東京電力の手で柏崎刈羽原子力発電所を再稼働させるという方針がもたらしている問題、この三つの点についてお話しさせていただきたいと思います。

 それでは、次のページをお願いします。

 まず、リプレースの回避がもたらしている問題ということですが、現在も政府は原子力を重要な施策としておりまして、二〇五〇年のカーボンニュートラルへ向けて、昨年十二月に発表されましたグリーン成長戦略の中の十四の重点分野の四つ目の柱として、原子力の、特に新技術、新型炉の開発ということを言われておるわけです。

 ところが、一方で、今日に至っても、原子力のリプレース及び新増設は、しないというよりも、するということを言わないという方針を続けておりまして、これが非常に国民からすると分かりにくいんですね。

 今は原子炉等規制法で四十年で基本的には廃炉で、二十年間プラス、許可があった場合は運転可能ということなんですが、現在ある全三十三基が全部六十年運転になったとしても、二〇五〇年の暮れには十八基しか残らない。みんな六十歳を超えてしまうわけです。それから、六〇年になりますと五基になって、六九年で泊三号機が止まりますとゼロになる。そうすると、重点分野だと言われて、脱炭素の重要な選択肢だと言われても、今のままでは選択肢にならない、こういう問題があるわけであります。

 端的に言いますと、技術開発はする、小型炉とか高温炉とか核融合とかはやる、でも造らない。こういうことで、これは国民からするとさっぱり分かりにくいんですね。端的に言うと、まさに絵に描いた餅という、そのことわざどおりの状態になっている。こういう問題があると思います。

 私、実は反原発でも推進でもない、ちょっと、私はリアリストだと思っていますが、そういう立場なんですけれども、それでも、何らかの形で使い続けるというのならば、やはりリプレースは必要だと思っています。Sプラス三Eといいますが、Sは正式に言うと安全性ではなくて、原子力発電って危険なものですから、その危険性を最小化するという意味だと思うんですが、その最小化という観点から考えると、新しい炉の方がいいに決まっていまして、これは原発に反対する人も意見一致する点だと思います。

 ところが、特に日本の場合は、今動いている九基が全部加圧水型の炉で、特にこれが古いんですね、新型炉は一つもありません。沸騰水に関しては、五基ほど全国に新しい炉があるわけですけれども、今のところ四基ですね、それで新設しているのが二基あるわけですが、特にもう中国では新しい加圧水炉が、ヨーロッパ型もAP1000と言われるものも動き出している状況の中で、何%であれ使い続けるのなら、やはりリプレースのことを言わないのは無責任なのではないかというふうに思います。

 それと、もうちょっとたってから言えばいいんじゃないとか、こういう意見もあると思うんですけれども、過去の歴史を見ますと、造ると言ってから少なくとも三十年ぐらいかかっていますので、もう間に合わないんですね、五〇年のカーボンニュートラルまで。そういう問題があると思います。

 私としましては、そういう意味で、リプレースは必要なんですが、逆に言うと、リプレースですから古い炉はどんどん畳んでいく、積極的に畳んでいく。むしろ原子力の依存度はそれで下げていくという、リプレースと原子力依存度の低減とを組み合わせるのが正しい道なのではないかと思います。

 残念ながら、現在審議されています五〇年の電源ミックス、全体としてはそれほど違和感はないんですが、一か所どうしても腑に落ちないところがありまして、小学生でも分かるんですが、普通に電源ミックスは原子力、火力、再生、こういうふうに分けるものだと思うんですが、再生はちゃんと五割から六割と言われているわけです。火力の中の水素、アンモニアは一割と言われているんですけれども、残りの三、四割を、二酸化炭素を回収して貯留したり利用したりするCCUSつき火力と原子力が一緒になって三、四割なんですね。これはすごくおかしいと思うんです。多分、今のままでリプレースしないという方針で、原子力をきちんと取り出しちゃうと一割以下になってしまうので、それが明示されるのが嫌なのかなというふうに思うんですが、例えば、そういうところにこの原子力政策の分かりにくさがある、これが第一点です。

 次のページをお願いいたします。

 次に、核燃料サイクル一本やりがもたらしている問題であります。

 御存じのように、核燃料サイクルは、高速増殖炉のサイクルと軽水炉のサイクルに分かれているわけですが、前者の高速増殖炉のサイクルは、もう既に二〇一六年に「もんじゅ」を廃炉にしましたので、これはなくなっているわけですね。そうすると、残りは軽水炉のサイクルなんですが、これは今のところ、プルサーマルということでちょっとずつプルトニウムを消費するやり方しかないわけです。

 もう既に許可が出ています再処理工場が動きますと、ざっくり言うと、年間七トンくらいプルトニウムがつくられますけれども、今のところ四基あるところの平均値ですけれども、年間大体〇・五トンずつくらいなんですね、プルトニウムの処理量が。そうすると、七を〇・五で割ると分かりますが、十四基必要になるわけですが、今四基しかない。電事連は新たに十二基造ると言っていますが、これは実は二〇一〇年に十六基から十八基造ると言って、全然できていないわけで、そこは全く新味がないわけでありまして、率直に言いまして、プルトニウムの平和利用のやり方が見えていない、そういう意味では破綻していると言わざるを得ない状況にあると思います。

 日米原子力協定は、一八年で一応固定期間が終わりまして、どちらか一方がノーと言うと廃棄できる状況になっています。日本が非核兵器保有国でありながら再処理をやっていいと国際社会で認められているのは、プルトニウムを平和利用するプランがあるから認められているわけで、それが、今言ったように、まだちゃんとでき上がっていないということになりますと、非常に不安定な状況、かつて同じアメリカ民主党のカーターさんが再処理に対して非常にいちゃもんをつけたことがあるわけですけれども、同じようなことが起こるという可能性もあるのではないかと思っております。

 一方で、私はリアリストですので、だったら再処理工場をやめてしまえというのは非現実的だと思っております。というのは、既に〇六年に、まだ竣工はしていないんですけれども、アクティブ試験というものが始まっていまして、もう既に九トンくらいプルトニウムをつくったりなんかしていますし、これはこれで使い切るしかないと思います。

 一方で、もう一個造らないと足らないという話なんですが、これはここに書いてあるような、もう既に総事業費が予定を超えて十四兆円というような状況では第二再処理はあり得ない、こういうふうに思いますので、結論からいきますと、核燃料サイクル一本やりではなくて、六ケ所は使えますけれども、プラスして直接処分、一回使ったものは直接地層に埋めるというものと併せて進めるというふうに本当は行くべきなのではないか、こういうふうに思っております。世界的に見ますと、直接処分の方がむしろ主流だというふうに思います。

 それでは、最後に三つ目の問題をお話しさせていただきます。東京電力による柏崎刈羽原子力発電所の再稼働がもたらす問題であります。

 御存じのように、核物質防護の不備問題で、原子力規制委員会が非常に厳しい処分、事実上再稼働ができないような処分を東京電力に下しました。ただ、私は、今回の件がある以前から、そもそも東京電力が柏崎刈羽を再稼働するというのはおかしいと思っています。

 というのは、事故処理費用が、後ほど鈴木先生からもうちょっと詳しい話があると思いますが、最低でも二十一兆五千億かかる。これは東電は払い切れませんので、国民負担になるわけですね。これは国民負担しないと福島の復興ができませんから、やはりせざるを得ないんですけれども、国民の側からすると、その前に前提条件がある。東電がきっちり徹底的なリストラをやって初めて国民負担という話に、順番からするとすべきだと思うんです。

 それじゃ、徹底的なリストラというのは何かというと、柏崎刈羽の原子力発電所を売ることだと思います、完全に。そして、売ったお金を廃炉の費用にどんと回す。それで足りないと思いますけれども、少なくともそういうことをやらないといけないというふうに思います。

 受皿は、これがもう一つ新潟県民を悩ましている問題ですけれども、東京電力は新潟県が供給エリアじゃないわけですね。供給しているのは主として東北電力でありまして、主として供給している人でないと、ある意味で非常にかゆいところまで手が届くような避難計画を作れないわけです。どこに電柱があって、どこにどういう需要家がいるかというのが分かっていない。

 そういう意味で、やはり東北電力がどうしても受皿になると思いますが、お金が足りませんので国ということになりますが、国営という道はないと思いますので、例えば日本原電ですね。民間会社ですけれども、今、最大株主が二八%ですかが東京電力、まあ、国有化されていますので、準国営会社なので、その会社が受皿になるということになると思います。

 これでも、安定供給には支障はありません。要員は東京電力の社員が新しい会社に移ればいいわけで、安定供給は問題ないし、そして、発生した電力の、こうなると、柏崎刈羽も許可を得ている六号機、七号機の運転が可能になると思うんですが、そこから出てくる電気は中立的な値段でかなりの量を卸市場に送ることができますので、今年の一月起きたような電力の需給の逼迫なんかの問題はある程度緩和することができるのではないかと思います。

 それでは、それで東京電力はやっていけるのか、私はやっていけると思います。残る中心はパワーグリッド、送配電の会社とEP、エナジーパートナーですね、配電の会社になりますけれども、世界でも最もいいような需要地を舞台にしていますから、十分に収益を上げて、給料、ボーナスも払って、その上で半永久的にずっと賠償金を払い続けるということは可能だと思います。

 福島に対する補償もサステーナブルな形でやらなければいけないわけで、これが私は本当の意味での東電の再生の道になるのではないかというふうに思います。これをやれば、何十年かたったら、東電は福島に責任を果たしたね、こういう話になるのではないかと思っています。

 以上で私の話を終わらせていただきます。(拍手)

○渡辺委員長 ありがとうございました。

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